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握手とチェキとアイドルと

ポエム

怒りの矛先を間違えた男

ある地方都市に、冴えない青年がいた。
中高一貫の男子校で育ち、
女性と関わる機会はほとんどなかった。
大学を出て、それなりの企業に就職したが、
人付き合いが苦手で、上司の標的になった。

毎日、叱責。
声を荒げられ、机を叩かれ、
「使えない」と繰り返される。
男は反論できず、ただ耐えた。
家に帰っても、心は休まらなかった。

ある日、駅前でビラを配る
地下アイドルの少女を見た。
笑顔でチラシを差し出された瞬間、
男は胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
それは救いのように思えた。

翌週も、その次の週も、
男は彼女のライブに通った。
会話は短く、形式的だったが、
男はそれを“特別な関係”だと誤解した。

やがて、もっと近づきたいと思い、
チェキ、物販、イベントに金を使い始めた。
給料の多くが消えた。
それでも足りないと感じた。

男は、会社の経費に手をつけた。
最初は小さな額だった。
すぐ戻せると思っていた。
しかし依存は止まらず、額は膨らんだ。

不正は発覚した。 上司に呼び出され、
淡々と事実を突きつけられた。
男は言い訳もできず、会社を追われた。
貯金も信用も失った。

その頃、地下アイドルの少女は、
他のファンと同じ距離で男に接していた。
特別扱いはしない。 それが当然だった。

しかし男は、
「自分だけが救われるはずだった」
という思い込みを捨てられなかった。
崩れた人生の理由を、
自分ではなく彼女に向けてしまった。

男は、少女に会いに行った。
怒鳴り声を上げるわけでもなく、
ただ、壊れた表情で近づいた。
スタッフがすぐに間に入り、
男の腕を押さえた。

男は抵抗しなかった。
ただ、力なく立ち尽くしていた。
警察が来るまで、 何も言わず、何もできず、
ただ、
自分の人生が終わったことだけを理解していた。

逮捕後、男は静かに取り調べを受けた。
少女に怪我はなく、
事件は未遂として処理された。
男は淡々と事実を語り、
自分がどこで間違えたのかを、
ようやく言葉にし始めた。

孤独。 承認欲求。 誤解。 依存。 破滅。

それらが積み重なり、
男は自分の人生を見失った。

少女は活動を続けた。
事件は一時的に話題になったが、
やがて忘れられていった。

男だけが、
自分の選んだ道の残酷さを、
静かに抱え続けた。

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