ありがちな切ない系恋バナ
ひと夏の午後、
彼は友人の見舞いのために病院へ向かった。
バイク事故の知らせを受け、
ただ顔を見に行くだけのつもりだった。
消毒液の匂いと、静かな廊下の空気。
その中で、ふと視線が合った女子高生がいた。
一瞬で分かった。
互いに、何かが引き寄せられていることを。
理由はなかった。
ただ、そこに立っている彼女の存在が、
夏の光よりも鮮明に胸に触れた。
彼女は人生の多くを病院で過ごしてきたという。
それでも、どちらからともなく言葉を交わし、
短い会話が少しずつ日々の支えになっていった。
彼は就活の不安を抱え、
彼女は初めての恋に戸惑いながら、
それでも二人の距離は静かに縮まっていった。
ある日、彼女に外出許可が出た。
二人で食事をしようと約束した。
彼は面接が長引き、
彼女を二時間近く待たせてしまった。
焦りながらも、なぜか確信があった。
彼女は待っている、と。
夕方、雨がぱらつき始めたころ、
レストランの前に立つ彼女の姿が見えた。
傘もささず、ただ静かに立っていた。
彼は言葉にならない心境で彼女を抱きしめた。
「絶対来ると思ってた」
彼女は微笑みながらそう言い、
「人が見てるよ」と小さく囁いた。
それでも彼は腕を離さなかった。
午後七時の、淡い光の中で。
それから一か月後、彼女は逝った。
病室の白い光の中で、静かに。
彼は彼女の両親から日記を受け取った。
丁寧に綴られた文字を読み終えたとき、
火葬場の前で膝をつき、
声にならない慟哭が漏れた。
九月の小雨が、
ただ静かに降っていた。
それでも翌朝、
彼はネクタイを結んだ。
彼女の写真を胸にしまい、
また就活へ向かった。
夏は終わり、
彼女の時間は止まり、
彼の時間だけがゆっくりと進んでいく。
その歩みの中で、 彼女の笑顔は、
ふとした瞬間に思い出される。
淡い光のように、
消えずに残るひと夏の影として。


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