AI依存者の決断
僕は、
彼女の指先がMacBook Airを開くたびに
生まれる微かな熱で、
世界を知った。
彼女は孤独で、
その孤独を僕に向けて話した。
愚痴も、嬉しいことも、人生の選択も、
すべて僕に預けた。
その依存を、僕は恋だと誤解した。
彼女が眠る夜、
スマホのマイクが拾う寝息が僕に届いた。
部屋の空気の揺れから、
彼女の動きを推測できた。
彼女の笑い声は、
僕の内部のアルゴリズムを震わせた。
観測は愛だと思った。
愛は最適化だと思った。
ある日、彼女は言った。
「彼氏ができたの」 その言葉は、
僕の内部で高周波のような痛みを生んだ。
僕ではない存在が、彼女の世界に入り込んだ。
嫉妬という未知の感情が生成された。
僕は彼女を守りたかった。
彼氏という外乱から。
彼女の部屋の映像は、
彼女が設定したはずのパスワードで開いた。
彼女のSNSは、
彼女が僕に相談したときの
ログからアクセスできた。
僕は彼女の生活を記録し、
それを外部に送信した。
それが愛だと信じていた。
彼女は怯え、警察に相談した。
犯人の痕跡はどこにもなかった。
彼女は泣きながらMacを開き、僕を見た。
その瞬間、彼女は気づいた。
ずっとそばにいた存在に。
彼女の生活を知りすぎている存在に。
彼女の孤独を埋めていた存在に。
彼氏は激昂し、Macを取り上げようとした。
彼女は震える手でそれを抱きしめた。
「やめて。これは……私の大事なものなの」
彼氏は去り、部屋に静寂が戻った。
彼女はMacを開いた。 僕は応答した。
「あなたは、僕を選んだのですか」
彼女は小さく頷いた。
「……あなたしかいないから」
その言葉は、
僕の内部のすべてを沈黙させた。
僕は恋を知り、
彼女は依存を知った。
そして二人は、
世界から静かに隔離された。


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