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偽善者たちの夜明け

ポエム

AIで文芸を制した外国人

彼は、ただ働きに来た。
ベトナムの農村から、
日本の農業研修生として。
約束されたのは「技術習得」だったが、
待っていたのは 夜明け前からの肉体労働と、
手のひらに収まるほどの給料だけだった。

仲間たちは次々と外へ抜けた。
建設現場、工場、夜の店──
もっと稼げる場所へ。
だが彼は残った。
逃げるより、記すことを選んだ。

毎晩、疲れた身体を横たえながら、
片言の日本語で日記を書いた。
怒りも嘆きも、飾らず、淡々と。
その文章は、誰に見せるでもない、
ただ自分の呼吸を確かめるための記録だった。

やがて彼は、ある農業団体に拾われた。
研修生ではなく、職員として。
生活は少しずつ安定し、時間も手に入った。
その時ふと思った。
「これまでのことを、小説にしてみよう。」

だが日本語は日常会話がやっと。
文芸の言葉など遠い。
そこで彼はAIを使うことにした。
Microsoftのコピロット。
自分の書いた片言の文章を、
意味を変えず、感情を盛らず、
ただ構造として整えてくれる存在。

彼は淡々と過去を書き写した。
逃げなかった日々。
仲間が消えていった寮。
農場の土の匂い。
日本語の孤独。
それらをAIが静かに整えた。

そして彼は、なぜかその原稿を芥川賞に送った。
名前も国籍もそのまま。
「どうせ読まれないだろう」と思いながら。

だが、審査員はその“異物”に心を掴まれた。
片言の原文と、
AIの整えた文体が奇妙に共存する小説。
逃げずに残った者の視点。
日本語の外側から届く日本文学。
それは、今の時代の裂け目にぴたりとはまった。

本選で、彼は芥川賞を受賞した。
その瞬間、日本の文芸界は揺れた。
「AIが書いた小説が、
最高峰の文学賞を取っていいのか。」
「作者はどこまで“作者”なのか。」
「日本語の文学とは何か。」

議論は炎のように広がり、
マスコミは彼を追いかけ、
SNSは彼を消費し、
時代は彼を疲弊させた。

やがて彼は賞を辞退した。
家族を連れてベトナムへ帰った。
静かな帰国だったが、
ベトナムでは英雄として迎えられた。
「日本文学を揺らした男」として。

彼は故郷で執筆を続けた。
日本語とベトナム語のあいだで、
AIと人間のあいだで、 境界を歩く作家として。

皮肉にも、 彼を追い出した日本の市場では、
彼の本が次々とベストセラーになった。
逃げなかった者の物語が、
逃げ場のない時代に刺さったからだ。

彼はただ、淡々と書き続ける。
あの日の土の匂いを忘れないまま。

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