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忘れてください

ポエム

ペットみたいに君が消えた夜

あの日、君は本当に突然だった。
飲み会の帰り道、
同じアーティストを推していると知って、
酔いの勢いもあって妙に盛り上がった。
その帰り道で、君には帰る部屋がないと知った。
気づけば私は、
うち来ればいいじゃんと言っていた。
それから君は、私の部屋に住みついた。
“友達の友達”という曖昧な肩書き以外、
君のことを私はほとんど知らなかった。
でも、その無知は
私にとって不思議とどうでもよかった。
会社の上司の愚痴も、家族との軋みも、
君はただ黙って聞いてくれた。
淋しい夜は、何も言わずに抱きしめてくれた。
時々作ってくれたロールキャベツは、
どうしてあんなに優しい味がしたんだろう。
君が自分のことをほとんど話さないことも、
その沈黙すら私には心地よかった。
同じ動画を見て泣いたり、
同じ音楽を聴いて笑ったり、
私の微妙な料理を「美味しい」と言って
全部食べてくれる君が、私は好きだった。
あの時間がずっと続けばいいと、
本気で思っていた。
でもある朝、君はいなくなっていた。
ペットが逃げるみたいに、痕跡もなく。
声を出すことすらできなかった。
ただ、ミニマリストの君が置き忘れた
白いマグカップを見つけたとき、
ああ、そうか、と理解した。
君はきっと、また別の誰かのところへ行ったんだ。
その瞬間、涙が勝手にこぼれた。
少しイケメンで、少し物知りで、
私の生活に静かに入り込んできた君は、
今は誰の部屋で、誰の料理を食べているんだろう。
今夜、私はひとりでロールキャベツを作った。
湯気の向こうで、君の姿を探してしまう自分が
まだどこかに残っている。

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