誰も知らない小さな町で
ファーストキスをした日の、
あの少し気まずいような晴れた朝。
突然「今日から中間テストだぞ」と告げられて、
心臓が変な音を立てた午後。
変なあだ名をつけられて、最初はムッとしたのに、
気づけばそれが愛称になっていたあいつの話。
数学の先生のモノマネが妙に似ていて、
教室の隅で肩を震わせて笑った放課後。
昨日のドラマを見忘れただけで、
みんなの会話に入れなくて、
自分だけ世界から少し外れたように感じた昼休み。
文化祭までの、
理由もなく胸がざわつくような高揚感と、
何かが始まる気がして眠れなかった夜。
あの頃、ワシらは本気で信じていた。
この小さな町の、小さな高校こそが、
世界のすべてだと。
だけど今になって思えば、
あれは確かにワシの一部で、
いや、ワシの価値観も、原体験も、
ほとんど全部ここで作られたんだと気づく。
初めて家族以外で、
心の底から分かり合える友ができた場所。
どうでもいい話で笑って、
どうしようもない悩みを抱えて、
それでも前に進む力をくれた場所。
ワシにとっての、大切なふるさと。
旅路はまだ続いていく。
でもきっとまた帰ってくる。
だからどうか、何も変わらずにいてくれ。
あの日のままの空気で、ワシを迎えてくれ。


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